デザイン未経験のマネージャー向け|チームのデザイン力を高める「観察力」の育て方
クリエイティブ統括本部 小塩 俊介

はじめに|マネージャーの役割は、部下のデザイン力を引き出すこと
近年、組織内にデザイン部門を立ち上げる動きが加速しています。プロダクト開発、マーケティング、営業資料、SNS運用など、あらゆる業務において“デザイン”が果たす役割が大きくなり、専門性の高い社内デザインチームの必要性が増しているためです。
そうした中で、マネージャーやリーダーに任命された方の中には、「自分自身はデザインの実務経験がない」「デザイナーに何を指導すればいいのかわからない」と不安を感じている方も少なくないのではないでしょうか。もちろん、ツールの使い方やデザインの構成ルールなどを直接教えることは難しいかもしれません。しかし、マネージャーの役割は“手を動かす”ことではありません。チームが成長し、価値のあるアウトプットを出せるように導くことです。 そこで注目したいのが「観察力」という視点です。観察力は、デザイナーが表面的なデザインを超えて、課題の本質に向き合い、効果的なアウトプットを生み出すための基盤となる力です。
本記事では、デザイン未経験のマネージャーでも実践できる「観察力の育て方」を通じて、チーム全体のデザイン基礎力を高める方法を解説します。

観察力はデザインの本質に迫る基礎力である
「観察」と聞くと、単に物事をよく見ることをイメージされるかもしれません。しかし、デザインにおける観察力とは、それ以上に「人の行動や感情の背後にある意図や課題を見つけ出す力」を意味します。
現在は、便利なツールやWebサービスを使って、優れたデザイン事例をすぐに調べることができる時代です。わたしも実際に利用しますし、複数のプロジェクトを掛け持つ側としては時間が短縮され効率的です。しかし、そうした外部情報に頼りすぎてしまうと「なぜそのデザインが良いのか」「どんな状況で誰のために機能しているのか」という根本的な視点を見落としてしまうリスクがあります。
本来デザインとは人のために存在するものです。つまり、人の行動や感情を理解し、問題を解決するための“仕組み”をつくることがデザインの本質です。そのためには、日々の生活や業務の中で「観察する習慣」を持つことが重要になります。
たとえば、駅構内のサインが分かりづらかった理由を考えてみる。飲食店の注文方法がスムーズでなかったときに、なぜそう感じたのかを立ち止まって言語化してみる。こうした日常の中の小さな“気づき”の積み重ねが、観察力の向上につながります。そして、このような視点を持つことでデザイナーは表面的な「キレイなデザイン」から脱却し、「意味のあるデザイン」をつくれるようになるのです。

観察から洞察へ|本質的な課題を見抜く力を育てる
観察 → 洞察 → 発想 という思考の流れ
観察によって得られる最も大きな効果は、「洞察力(インサイト)」が育つことです。洞察力とは、見えている事象の背後にある、目に見えない“理由”や“心理”を読み解く力のこと。これこそが、デザイナーにとって最も重要なスキルのひとつです。
たとえば、あるアプリのUIが使いにくいと感じたとします。ただ「使いにくい」と片付けるのではなく「なぜその操作が迷いやすいのか」「どうすれば自然な導線になるのか」といった分析を行うことで、初めて課題の本質が見えてきます。
このように、観察を通じて得た「違和感」や「気づき」をもとに、ユーザーの背景や文脈を深掘りし、根本的な問題を抽出していく力。それが洞察力です。
そして、この力があってこそ、本当に意味のあるデザイン提案が可能になります。
思考プロセスの一例
- 現状の観察:人の行動や反応といったシーンを丁寧に観察する
- 本質の発見:表面的な問題ではなく背景にある“なぜ”を考える
- 改善へのアイデア発想:どうすれば解決できるかをチームで検討する
- 検証と改善:実際にプロトタイプや施策を試し効果を見ながら修正する
このサイクルを習慣化することが、デザインの質を高める鍵になります。

観察力はチーム全体の思考力・対応力を高める
観察力は単に「デザインスキルを伸ばすため」だけのものではありません。ビジネス全体に通用する“思考力の土台”でもあります。
観察することで、向き合う相手の微妙な変化や、環境の違和感に気づく力が養われます。すると、以下のような好循環がチームに生まれます。
- 社内外のコミュニケーションにおいて相手の意図や感情を読み取る力が向上する
- 不要なケアレスミスや勘違いを事前に察知できるようになりミスが減る
- 問題が発生しても感情に流されず冷静に状況を把握・分析できる
- 表面的なやりとりではなく本質的な課題解決へ導く提案ができる
- 多様な視点が集まりやすくなりイノベーションの芽が育ちやすい
マネージャーができる、観察力を育てるデザインチームづくり
観察力を育てるための実践アイデア
無理に“観察力を身につけなさい”と指示するのではなく、自然に観察を促す仕組みを作ることがマネージャーの役割です。以下のような施策はチームの雰囲気を壊さずに、観察の意識を浸透させる効果があります。
- 観察共有会の開催:週1回、気づいた事例や経験を持ち寄ってみる
- 問いかけの習慣:「なぜそう思った?」を口癖にしてみる
- 書籍・動画の紹介:観察に役立つ資料をチームで回覧してみる
- 気づきの掲示板:SlackやMiroなどで“発見”をシェアしてみる

まとめ|観察力があるデザインチームは、成長し続ける
デザイン力を本質的に高めるためには、「観察力」を軸とした思考の習慣化が欠かせません。 そしてそれは、マネージャーが自ら実務を行わなくても、環境づくりによって十分に実現可能です。
小さな工夫を積み重ねることで、チームは確実に変わります。ぜひ「観察」をキーワードに、チームのポテンシャルを最大化する一歩を踏み出してみてください。